日本ワイン業界専門誌『日本ワイン紀行 vol.021』に弊社代表が寄稿~JOURNAL OF JAPAN WINE

こんにちは。マザーバインズ&グローサリーズ株式会社の丹羽(にわ)です。2023年12月1日発刊されました、日本ワイン業界専門誌『日本ワイン紀行 vol.021』に弊社代表の陳 裕達が寄稿いたしましたので、その内容をご紹介いたします。
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はじめに

弊社マザーバインズは、ワイナリーの立ち上げやブランディングなどのコンサルティング事業を通じて日本ワインの大いなる可能性に接してきました。その一方で、さまざまな課題にも直面してきました。そこで本連載では、私共が展開する事業の一端を紹介する傍ら、そこに宿る課題について皆さんと共有していきたいと思います。

毎年長野県東御市にあるアルカンヴィーニュにて、受講生に講義を行う様子

日本ワインの産業の発展を支えるインフラを整備

弊社は、苗木の生産から圃場計画、ワイナリーのレイアウト設計、ワインの醸造指導、ブランディングや販売まで、ワイン造りに係るコンサルティングを一貫して手掛けています。各分野の専門性に長けたスタッフの知識やキャリアを融合させることで、日本ワインに新しい価値観を創造することを理念に掲げています。

多岐にわたる事業のうち私共が注力して来たのは、ワイン造りに係るインフラ整備です。まず手掛けたのは、2003年より始めた醸造葡萄用苗木育成事業。当時の日本の苗木事業といえば、葡萄品種・台木の選択肢も限定的。生食用に比べ醸造葡萄用苗木の価格が比較的安価なこともあって、醸造用葡萄を専門とする苗木生産業者が不在というのが実情でした。

また業界内でも葡萄樹のウイルス管理や検査体制が乏しく、ウイルスに罹患した圃場が各地で散見されました。そこで、優良なクローンを選抜した穂木を海外から輸入。隔離検疫を経て山梨県南アルプス市に整備した圃場に植栽し、この圃場を母樹園としてウイルス管理を行い、健全な苗を育成・供給する態勢を整えました。

山梨県南アルプス市に整備した圃場

各品種のクローンは、ニュージーランド最大手ナーサリーに所属する植物病理学専門ドクターが日本に数度来日し、日本の気象・土壌適正並びに世界標準を考慮した上で優良クローンを選抜。その海外調達にも尽力頂きました。一方、穂木は隔離検疫所のスペースの制約から年間わずか100本しか輸入することができず、隔離検疫で非合格となる事もしばしば。10年以上の時を経て、山梨の母樹園には20品種・クローン50種が揃いました。

山梨県南アルプス市に整備した圃場敷地内にある作業スペースにて、苗木の接ぎ木の様子

創業当時は選択肢や情報がとても限定的だったワイン醸造用の酵母や発酵資材についても、フランス・Laffort社と代理店契約を締結。最新の醸造技術やモダンワインメーキングの世界動向を伝えるセミナーを開催するなど、業界に有用な情報を発信しています。また、酒税法上使用に制限を受けている有効な発酵資材の認可取得においてLaffot社より必要な海外情報・製品データーを取得し、提供。製造インフラの改善にも努めています。

持続的な事業にするため「なぜ」を突き詰める

さらに、私共はワイナリーのブランディングにも力を入れてきました。オーナーの考えをしっかりとヒアリングし、地域の資源や伝統文化といった背景の調査を重ねたうえでワイナリーの理念やコンセプトを練り、それをビジュアルに落とし込む形でブランドのデザインを制作しています。

たとえば2003年創業・北海道達布市所在山﨑ワイナリー様の場合、オーナーの揺るぎない意志でもある“農業者の自立と農業文化の改革”を理念とし、“小規模ながらも高品質なワインを造るワイナリー”をコンセプトに策定。家族で営むブティックワイナリーというアイデンティティを、北海道の広大な大地に咲く一輪の花で表現することにしました。5枚の花びらは家族一人ひとりから取った指紋をデザイン化。家族経営のワイナリーであること、初心を忘れることなく品質の高いワインを造っていこうとの想いを、ブランドストーリーに込めました。

ブランドコンセプト作りで大切なこと。それは、ワイナリーがある地域の資源とワイナリーがどのような形で融合し、地域に根差すことができるかに尽きます。私共が最も深く考え、追求する部分でもあり、山﨑ワイナリー様の例ではそれ(地域資源)がまさに“家族”でした。

私共のもとには、ワイナリーの新規開業に関する相談や依頼が日々舞い込んできます。しかし、その多くはワイン造りへの憧れで、事業性の検証は不充分。根本であるワインである必要性や理由に一貫性が無いケースが目立ちます。ワイナリーはブランドコンセプトをベースにした良質な商品作りと、地域住民に指示されるアイデンティティを形成することで信頼と絆が産まれ、ローカルブランドとして確立していきます。地域が誇るブランドとして共生していくことで、一過性のブームで終焉するのでは無く、持続的に存続が出来るのだと私共は考えます。

「個」は際立てども「産地形成」は道半ば

国内のワイナリー数は年々増え続け、酒類製造業及び酒類卸売業の概況(令和5年アンケート)では479場と500場に迫る勢いで増えています。こうした中、今後の課題として浮かび上がってくるのが産地形成であると考えています。

多くの新規ワイナリーは、個が立っていて素晴らしい。けれども、現状は小規模ワイナリーの集積地形成が出来た段階。ボルドーやブルゴーニュ、ナパバレー、アデレードといった産地のように、ぶどうの品種やワインのスタイル、品質と関連産業が戦略的なゾーニングをもって産地がくくられていない。もちろん山梨県のように、歴史や甲州・ベーリーAを代表とする適正品種を持つ地域はあるのですが、こうした地域はごく一部に限られます。まずは地域のフラッグシップになる品種を育てること。

子会社であるマザーバインズ&グローサリーズ株式会社主催の業者向け試飲会でワインの説明を行う

次にワインのスタイルや品質の根拠となるテロワールをしっかりとうたえるようになること。さらには、それにかなったぶどうの仕立てや剪定方法、植栽密度、醸造方法が導かれること。これらを各地のワイナリーが共有し作り上げていくことが今後求められると考えています。

醸造所にて手作業で選果作業を行う様子

さいごに

マザーバインズが創業して23年が経ちます。この間に国内ワイン製造のインフラは整いつつあり、日本ワイン産業は大きく飛躍しました。しかし、現状における日本ワインの消費は、国内ワイン消費全体のわずか5%程度に過ぎません。今後も日本の醸造家が持つものづくりに対するこだわりや技術により、日本ワインの品質は益々高まって行くと思われます。一方、私共はコンサルとして収益性の高いワイナリー事業モデルを追究すると共に、ワイン産業・地域・消費者が共に豊かになる好循環を産み、ワイン産業の持続可能性をサポートする事を次の使命とし、事業を展開して行きたいと考えています。

有限会社マザーバインズ代表取締役 陳 裕達氏

総合商社 大倉商事株式会社でビール・ワインなどの製造プラントや製造設備の輸出入、三国間貿易、ODA開発協力プロジェクトに携わったのち、2000年に有限会社マザーバインズを起業。ワイナリーの新規開設や栽培醸造指導、ブランディングに係るコンサルティング事業を広く手掛けている。また、クローン特定された健全苗木の生産事業を山梨に起業するなど、国産ワイン製造における環境インフラの整備にも力を注ぎ続けて現在に至る。