日本ワイン業界専門誌『日本ワイン紀行 vol.022』に弊社代表が寄稿~JOURNAL OF JAPAN WINE

こんにちは。マザーバインズ&グローサリーズ株式会社の丹羽(にわ)です。

2023年12月1日発刊されました、日本ワイン業界専門誌『日本ワイン紀行 vol.022』に弊社代表の陳 裕達が寄稿いたしましたので、その内容をご紹介いたします。

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日本ワイン紀行 vol.022の表紙

小規模ワイナリーこそブランディングが重要

ワイナリーの立ち上げやブランディングなど、弊社のコンサルティング事業を通じて見えてきた日本ワイン業界の現状とその課題を皆様と共有する本連載。今回は小規模ワイナリーのブランディングについてお伝えしたいと思います。

ブランディングとは信頼と絆を確立すること

そもそもブランディングとは何か?まずここからお話ししたいと思います。ブランドの定義は様々ですが弊社では次のように定義しています。「ブランドは消費者に認知される事から始まり、商品の品質・製造技術に信頼性を持たれ、そして商品と顧客との間に長期的に揺るぎ無い精神的な関係/絆を構築することで確立される価値」。ワインに例えていうと「美味しい高品質なワインを造ることで信頼を獲得」し、「ワインに込められたストーリーを通じて造り手と飲み手の間に精神的な絆を確立」することです。
ワイナリーをこれから立ち上げようとされる方から最初に聞かれることは、ほとんどが資金面のお話です。しかし「ワイナリーとしてのコンセプト」が確立していなければ、いざワインができた後にマーケティングで苦労することになります。それを避けるにはブランド戦略が必須であり、ワイナリーのコンセプトを明確に設定する必要があるのです。

ブランドロゴの重要性

コンセプトが確立したら、それを明確に伝えるための手段としてブランドロゴが大きな役割を果たします。弊社のロゴを例に挙げて説明しましょう。マザーバインズという社名は母樹という意味で、万物の循環を表すメビウスの輪にブドウの樹を投影したものです。ブドウは土中に含まれる養分を吸収します。そして年ごとに変化を見せる気候風土を表現し、果実がなります。その過程においては、醸造家、エンジニア、デザイナー、ソムリエなど、様々な経験や知識が欠かせません。これらキャリアを持つ人々を土中の養分になぞらえ、彼らの力を吸収し、融合させ、日本ワインに新しい固有の価値観を付与していこうというのが弊社の理念です。それを反映したこのブランドロゴは、見せるだけで会社の理念を伝えられますし、見た側も想像しやすいと思います。ブランドロゴはマーケティングの糸口となる重要な役割を担っていることがお分かりいただけるでしょう。

有限会社マザーバインズのロゴ

地域ブランドとして確立したワイナリーを

以上を踏まえたうえで小規模ワイナリーに提案したいのが地域ブランドとしてのブランディングです。地域ブランドとは「その地域が独自に持つ歴史や文化、自然、産業、生活、コミュニティといった地域資源を素地とした、地域住民が支持評価するアイデンティティを持ち、それを反映した体験の場を通じて有形無形の地域の地域資産と消費者を精神的に結びつける価値」と弊社では定義しています。つまり地元の文化や自然との結びつきを強めることで、社会的な役割を果たす産業としてワイナリーの固有価値を高め、日本ワインファンだけでなく地元の人にも愛されるワイナリーを目指すのです。

その景色が想起される商品

地域ブランドを確立するため、弊社がこれまでにご提案した例を用い具体的に説明していきましょう。1軒目は広島にある三次ワイナリーです。弊社ではご依頼を頂くと、どんな地域資源があるか現地調査を行います。三次ワイナリーは3本の川に囲まれた土地で、その川にかかる巴橋は地元の人ならだれでも知っているシンボル的な存在だということがわかりました。

広島県三次市にかかる巴橋

また、これらの川のおかげで夏から秋にかけ朝方に濃い霧が発生します。これらから連想したのが「水」というモチーフです。ワインはブドウが地中から吸い上げた水でできています。川の水が霧となり、雲となり、雨が降って川に戻る、そんな自然の循環の中で生まれる産物と捉え、これらをモチーフにした文様をラベルに施しています。さらにフラッグシップのワインは巴橋からとってTOMOEとしたのです。


TOMOEブランドを発表した際の広島県三次ワイナリーのポスター

もう1つの例は東日本大震災復興事業として三菱商事の復興支援財団が支援し立ち上げた秋保ワイナリーです。ブランドコンセプトは「ワイン文化を核とした産業活性化と新規ビジネスの創造」。

自社畑と仙台秋保醸造所

その現地調査で出合ったのは万華鏡でした。万華鏡を回すと次々と新しい模様が見えますよね。そこから秋保ワイナリーの活動が、震災で失われてしまった伝統文化や自然と融合し、新しい価値観や産業を生み出して復興を推進するというイメージが見えてきました。地元で親しまれている神社の神紋やリンゴの花、七夕飾りなど、万華鏡を通してデザイン化することで地域との結びつきも表現しています。

万華鏡をモチーフにした秋保ワイナリーのエチケット(ワインラベル)

これらの例に共通するのは、ブランドロゴを通じ消費者が容易にその地域を想起できる点です。その結果ワイナリーは地域ブランドとして地元産業の一翼を担うこととなり、そこに持続性も生まれていくはずです。

ただ、理想だけでは物事は進まないのも事実です。次号ではワイナリーを新規に立ち上げる際の理想と現実のギャップなどについてお話をしたいと思います。

マザーバインズ長野醸造所にて陳社長

有限会社マザーバインズ代表取締役 陳 裕達

総合商社 大倉商事株式会社でビール・ワインなどの製造プラントや製造設備の輸出入、三国間貿易、ODA開発協力プロジェクトに携わったのち、2000年に有限会社マザーバインズを起業。ワイナリーの新規開設や栽培醸造指導、ブランディングに係るコンサルティング事業を広く手掛けている。また、クローン特定された健全苗木の生産事業を山梨に起業するなど、国産ワイン製造における環境インフラの整備にも力を注ぎ続けて現在に至る。