日本ワイン業界専門誌『日本ワイン紀行 vol.023』に弊社代表が寄稿~JOURNAL OF JAPAN WINE

こんにちは。マザーバインズ&グローサリーズ株式会社の丹羽(にわ)です。

2024年6月1日発刊されました、日本ワイン業界専門誌『日本ワイン紀行 vol.023』に弊社代表の陳 裕達が寄稿いたしましたので、その内容をご紹介いたします。

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ワイナリーの立ち上げやブランディングなど、弊社のコンサルティング事業を通じて見えてきた日本ワイン業界の現状とその課題を皆様と共有する本連載。今回はワイナリービジネスの多様性とポテンシャルについてお伝えしたいと思います。

多様化する新規参入者

弊社は苗木の調達から栽培醸造、さらにはブランディングまで、ワインビジネスに関し一貫したコンサルティングを行っておりますので、各部門に日々多岐に渡る相談を頂きます。ここ5、6年は特に異業種からの参入が圧倒的に多く、その多様性には目を見張るものがあります。彼らを大別すると、ワイナリーから独立される方や新規就農者に加え、医師やIT業、飲食業や銀行業の方などがセカンド・ライフとして参入される「個人事業」と、酒販事業、不動産関連、社会福祉法人、旅行業、広告代理店などが企業ブランディングや地域活性化を目的として参入される「法人事業」があり、その背景が多岐にわたることがお分かりいただけるでしょう。異業種からの参入が多いということはワインビジネスにこれまで全く携わってこなかった方が多いことを意味します。ワインはブドウ栽培という農業に始まり、それを加工して製品とし、6次産業まで発展させなくてはなりませんから、そのための技術と知識を習得して頂く必要があります。現在の日本でそれらを一貫して学ぶことができる施設や大学は非常に限られているため、弊社の長野醸造所では栽培醸造の理論を学び、それを実践することで基本的な技術習得ができるカリキュラムを提供し、支援を行っています。

マザーバインズ長野醸造所の外観

厳しさを増すワイナリー事業への参入

知識や技術を取得したとして、いざワイナリーを設立する前に考慮しなくてはならないのが現在のコスト高です。国際情勢の悪化に端を発したエネルギー資源高騰は、ワイナリー設立・運営に必要なあらゆる資材の価格上昇に直結しています。例えばコロナ渦数年前までのワイナリー建築費用は坪単価が倍近く迄上がり、ワイン樽1つを取ってみても15万円ほどだったものが今は20万円を超えるブランドも珍しくありません。

マザーバインズ長野醸造所にて購入したフランス産のワイン樽

温暖化の影響も深刻です。酸落ちや着色不良、今迄適作とされていた品種が変わってしまう。ブドウは多年生植物ですから、いったん植えてしまったら簡単に品種を替えることはできません。品種の選択は今後一層慎重に行う必要があります。さらに、かつては潤沢に用意されていた国の補助金も近年はかなり削減され、コロナ禍前と比較すると三分の一以下というのが実情です。ワイナリー事業は決して気軽に参入できる状況ではありません。

ワイナリー事業が創造する地域社会への貢献を視野に

このような厳しい環境の中で健全にワイナリーを維持する方策として、地域社会との融合を視野に入れた計画が重要となるでしょう。最近の事例として、ワイナリー立ち上げの際コンサルティングを行った岩手県にある、社会福祉法人「悠和会」が運営するアールペイザンワイナリー様をご紹介します。彼らは後継者不足に悩む畑を借り受け、入所者が主体となって圃場を管理するスキームを確立しました。地主の中にはお子さんが入所されている方もいて、自分の畑で生き生きと働く子供の姿を目にして非常に喜んでくれたそうです。これは国の支援を得て運営する社会福祉法人がワイナリーというビジネスを通じて耕作放棄地、入所者の就労、農業後継者という地域の問題をまとめて解決したということ、言わばワイナリーが社会福祉という事業を通じ地域社会へ還元するという好循環を生み出している例でもあります。すなわち社会的役割を果たすことはビジネスそのものの持続性を高めることになるのです。

岩手県花巻市にオープンしたアールペイザンワイナリーの外観

社会福祉法人に限らず、多様な参入者が増えている今こそ、そのバックグラウンドを活かして地域産業との融合や地域貢献を推進し、日本独自の持続可能なワイナリー産業を創り出すことができるはずです。ワイナリー事業には我々がその領域に到達していない、未だ多くの可能性が潜在していると私は考えます。

産地独自の評価基準を構築

日本ワインの消費者層拡大・ワイナリー産業の持続性を高めるには、ワインの品質評価に加え、地域・産業・環境への経済効果・貢献度・責任に対する評価基準が求められるようになるでしょう。海外ではすでにナパ・ヴァレーのNAPA GREEN制度や、フランスでのHVE認証などが運用されており、環境認証が義務化される原産地呼称も見られるようになりました。これらの取り組みを通じ産地毎に独自の評価基準が構築されることは、ワイン産地形成の新たな礎となる戦略的なゾーニング※と捉えることもできます。その評価がワインのプロモーションになるとともに、ワイナリー産業が地域の活性化に繋がるよう促す、そんな好循環を生み出すのが理想的です。観光立国として存在感と人気が高まる現在、日本のワイナリーの多様性を楽しむことができれば、日本ワインの独自性や付加価値がより高まるのではないでしょうか

※ゾーニング・・・空間をテーマや用途に分けて、類似した性格の空間(部屋や区画)をグループごとにゾーンとしてまとめ、計画していくこと。

有限会社マザーバインズ代表取締役 陳 裕達氏

総合商社 大倉商事株式会社でビール・ワインなどの製造プラントや製造設備の輸出入、三国間貿易、ODA開発協力プロジェクトに携わったのち、2000年に有限会社マザーバインズを起業。ワイナリーの新規開設や栽培醸造指導、ブランディングに係るコンサルティング事業を広く手掛けている。また、クローン特定された健全苗木の生産事業を山梨に起業するなど、国産ワイン製造における環境インフラの整備にも力を注ぎ続けて現在に至る。